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【特別展】中村正義 - 日本画もカラフルもホラーも「全部同じ人が描いたの?」と幅広い作風に驚く

特別展「中村正義」看板

 

2025年5月31日~7月6日まで奈良県立美術館にて開催の特別展「中村正義ーその熱と渦ー」の感想です。

どんな展覧会?

中村正義(1924-1977)
→「反骨の画家」と呼ばれ、さまざまな画風を展開
→代表作を中心に、多様な活動にも焦点を当てた展覧会

全体的な感想

中村正義、まったく知らなかったのですが、作品によってかなり画風が異なることにまず驚きました。

振れ幅がすごい(展覧会チラシを撮影)

 

伝統的な日本画から始まったと思いきや、ポップな色遣いで大胆な構図、かと思えば巻物もあり、写真みたいに写実的な絵もあり、ぞくっとする怖い絵もあり、仏画っぽいのもあり。

全部観終わってから「え、いま見てきたのって、全部同じ人が描いたんだよね!?5人くらいいたような気がする」と混乱(※師匠や弟子などの作品もありますが、それとは別で)。

年齢とともに画風が変わっていくのはどの作家にもあり得ることとは思いますが、あまりにも、一回一回の変化量が大きいというか。

そんな中でも、とくに印象に残ったものを挙げていきます。

源平海戦絵巻 第3図「玉楼炎上」

源平海戦絵巻 第3図「玉楼炎上」(展覧会チラシを撮影)


映画の挿入画として描いたものということで、他の絵とも全然違う雰囲気でしたが、すごく印象に残りました。

荒れた海に翻弄される船、金色の火が上がっているわけなんですが、この火の感じがものすごくリアルで(金色なのに)、まず胸に迫ってくる。

そして、中央の大きな船に乗っているのは、きれいな着物を着た高貴な身分(と思われる)の人々。
周辺の小舟には武士?たちが矢を放ったり、刺さったりしている。

で、この人たち全員、ゾンビみたいな顔色なんですよ。
体は平坦なタッチで着物の色も普通に描かれているのに、顔だけが青白く浮き上がってくるみたいな。
なんともいえない不気味さ、悲壮感でした。

この隣に第五図の「籠城煉獄」もあって、そちらは一面が真っ赤に燃えているんですが、これもまたすごい雰囲気で。

真っ赤に燃えてるだけでも異様なのに、血痕のような模様もあり、「うう…」となりつつ引き込まれてしまった。

「おそれ」

晩年は病の影響もあってか、ちょっとぞわっとする作風も増えてくる。

「おそれ」は、政治家の汚職事件への批判を込めた作品。
政治家や女優などが、下から照明を当てられたような構図。手を後ろに出しているのがわいろをもらおうとしているのを象徴しているとかなんとか。
彼らの後ろには亡霊のような一般の人々。

政治家や著名人はちょっとデフォルメして描かれているのに、光の当たり具合はやけにリアルで。
その一方、光が当たっていない、影のような一般の人々は写実的に描写されていて。
同じ絵に相反する要素がいくつも混在していて、なんともいえない感覚に陥りました。

元のタイトルは「不安」とかだったらしく、「あー、わかるわかる」という気持ちに。

その他

「顔」「男女」「舞妓」なども彼の主要なモチーフで、様々な作品がありましたが、見れば見るほど、多様でわからなくなっていくというか…。

最晩年の、病床で描いた水墨(水彩だったかも?)画もまた、どんどん弱々しくなっていくさまが感じ取れて、胸が詰まるような。

おわりに

チラシとチケット

 

中村正義は若い頃から病と闘っていて、改めて「芸術家って病気の人多いよなあ、だから芸術方面に進むのか、あるいは才能の都合で病気になるほど繊細なのか」なんてことを考えたりしました(逆に、健康で体力がある人はバリバリ働く人多いですよね)。
ニワトリが先か、卵が先か、みたいなものなんでしょうか。

あと、美術展で毎回思うのが、「有名な人ってそもそも作品数多いよね」ということ。
たくさん生み出せる、そのこと自体がもう才能なんだよなあと思ったりしました。

いいなあ。
(といっても、才能がある人はある人で、人生大変そうなので、「ふつう」がいちばん生きやすいのかもしれない)