奈良国立博物館にて2021年12月10日~2022年1月23日まで開催された特別展「藤田美術館展ー傳三郎のまなざしー」の観覧記録です。
本特別展のポイント
・藤田美術館は大阪の実業家・藤田傳三郎氏のコレクションにはじまる
・藤田美術館は2022年4月にリニューアルオープン予定
・オープン前に、コレクションを奈良博にて紹介
・さまざまな時代の名画がメインで出陳
特に印象に残ったもの
大獅子図(作者:竹内栖鳳)
本展示会のメインビジュアルを飾る、ライオンの絵。
近くで観ると、顔周りのリアリティに驚かされました。
たてがみのふんわりした感じとか、感情を読み取れそうで読み取れない野生の目の感じとか、「この屏風のなかで獅子は生きている」と思いました。
蒲萄虫図(作者:愚庵)
蒲萄の実のなる様子を描いた水墨画(室町時代)。
蒲萄の実が重なり合っている様を、墨の濃淡で描き切っています。
墨一色での表現なのに、蒲萄の実の色が今にも見えてきそうな感じ。
境界部分は白抜きにしてあるのですが、これがまたいい。
蒲萄の葉の上から、ちょこんと虫が顔をのぞかせているのもかわいい。
吉原通図(作者:鳥文斎栄之)
2人の男が吉原に遊びにいく様子を描いた絵巻。
隅田川を渡るときは墨のみのシンプルな絵ですが、吉原に到着すると、女性たちの着物が華やかになり、場面転換を感じます。
どういう流れでもてなされていくのか、も時系列でわかるので、興味深かったです。
絶壁巨瀑図(作者:森寛斎)
いわゆる「大瀑布」を描いた日本画。
白いしぶきを上げて落ちていく水のその先を、岩の上に鎮座するトラが見ています。
これも良いですが、「中深山瀑布左右春秋図」(たぶん)のほうが好きかも。
滝の横で、赤く染まった紅葉が華やぎ、その下に鹿たちという構図だったかと。
動物の毛がふわふわしている部分ははっきりした輪郭を引いていないところが「なんかいいなあ」と思ったのでした。
小野小町坐像(卒塔婆小町)
乞食の老女が、倒れた卒塔婆に腰を掛ける姿のお像。
この老女は、かつて才色兼備で名を馳せた小野小町です。
お能の一場面を表現しています。
安土桃山~江戸時代(16~17世紀)の作品ということで、保存状態もよいです。
何より驚いたのが、細部の表現が丁寧。
髪の毛はおそらく人毛(?)が植毛されています。
そして、伸びきって赤黒くなった手足の爪。
少し開けた口元からは、歯が欠損している様がわかります。
全体的な雰囲気は幽霊的といいますか、「ギョッとする」のですが、お顔をよく見ると、シワが刻まれつつも、どこか知的さが垣間見える。
こんなにも多くの情報をお像に宿せるなんて。
作者は不明のようですが、かなり実力のある人がつくったのだろうと想像します。
おわりに
水墨画とか日本画とか、以前は「ようわからん」と思っていたのですが、年齢を重ねたせいか、しみじみと楽しめるようになってきました。
同じ一人の人間でも時間とともに様々なことが変化していく、だから人間っておもしろいな、と思います。