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【松柏美術館】「本画と下絵から知る上村松園・松篁・淳之」展

2022年9月6日~11月27日まで松柏美術館にて開催の「珠玉の松柏美術館コレクション2022 本画と下絵から知る上村松園・松篁・敦之」展の感想です。

松柏美術館 案内板

とんな展覧会?

上村松園らの作品を所蔵する松柏美術館。

本展覧会では、下絵と本画を並べて展示しているのが特徴。
両者を比較することで絵が出来上がるまでのプロセスや、画家の思いを知ることができます。

観覧レポート

おおまかな流れですが、①松園の部 ②松篁(松園の息子)の部 ③淳之(松園の孫)の部の順に展示されています。

親‐子‐孫と血がつながっているとはいえ、それぞれの作風が異なるのが表れていて興味深かったです。

本記事は松園について語っています。

上村松園について

上村松園は女性で初めて文化勲章を受章した人。

私は、夢をかなえる爆笑! 日本美術マンガ おしえて北斎!という本で松園の『焔(ほのお)』という作品を知りました。

(後述しますが)これがなかなか衝撃的で、それ以来松園に興味を持っていました。

『楊貴妃』大正11年(1922)

「楊貴妃」(チラシを撮影)

湯上がりの楊貴妃がお付きの少女に世話をされながら涼んでいる場面。

お世話する少女は障子?網戸?の向こうにいるのですが、この透ける感じがとてもリアルで印象的でした。

外を隔てるすだれも、何気なく描かれているように見えますが、下絵を見ると、風景までかなりきちんと描き込まれいるのがわかります

『焔』(下絵は松園、本画は模写)

本画は損傷が激しいらしく、模写が展示されていました。

こちらをふりかえるようなしぐさで髪を噛む、源氏物語の六条御息所の生霊。

怨念を感じはするものの、恨みというよりは、やりきれないようなひどく悲しい目をしているんですよね。
なんだかもう、心がザワザワしてしまって、直視できないような絵です。

六条御息所は源氏と恋に落ちるも、源氏を独占したくなり、しかし自分が年上だったり知的な女性としてのプライドが邪魔したりで、気持ちを抑圧。
この自己抑圧が生霊となってしまって、、、という話なので、こんなに悲しい目になるんだな、と納得しました。

また「焔」は、松園がスランプに陥っていた時期の作品。
「焔」を描くことで打開できたようです。

画家としての諸々の苦しみ悲しみが六条御息所の生霊とないまぜになって、ここまでの凄みを出しているんだろうなと思います。

模写も大変すばらしいのですが、欲を言えば、実物を見たかったような気もします。

『花がたみ』大正4年

花がたみ 本画と下絵 (展覧会チラシを撮影)

今回の展示のメインは「花がたみ」。

謡曲『花筐』からの発想(詳細は青空文庫にあります>>>上村松園 花筐と岩倉村)。

「狂人の狂う姿」を描きたいということで、松園は岩倉病院に取材に行ったそうです。

そして、「狂人の顔は能面に近い」ことに気づき、能面を顔として描いたところ、意図した通りの狂人の顔ができた、と松園はつづっています。

たしかに、目線の虚ろな感じとか、絶妙にほほ笑んでいるような口元とか、妙にリアリティがあります。

ゾッとするようなしないような、これまた直視できないような気分になるのです。

「実地に見極わめることが、もっとも大切なのではないかと思う」と松園はつづっており、また、下絵から感じられる計画性からも、写実主義的な印象を受けました。

日本画って平面的なイメージがあったのですが、松園の絵がどこか特別なのは、「ありのままにものを見る目」が備わっていて、かつそれを表現できる技量を持ち合わせていたのも一因なのかなと思いました。

下絵を見て思ったこと

松園の下絵は、おそらく最初に朱で下書きして、墨で線を引き、さらに上から紙を貼って修正しています。

洋服の柄の指定とか、「ここはこんな風にぼかす」みたいなことも書きこまれていて、「下絵というより製図に近い」とすら思いました。

私だったら、「(絵が得意なわけでもないのに)ここは本番で直せばいいやー」と思って、適当になる自信があるので、「当たり前だけど、一流ってすごいな」と思いました。

まあ、よく考えたら、練習でできないものを本番で出せることって、ほぼないですからね。

即興性を大事にする作風も良いですが、丁寧に作り込まれた作風もまた魅力的だなと思いました。

おわりに

あの時代に、女性が画家として生きていくのはさぞかし大変だっただろうと思います。
賞をとるなんてもってのほかだったでしょう。

それでも、認めざるを得ないほどの才能だったのでしょうね。

松園が文化勲章を受章したのは74歳、亡くなる一年前でした。
(ノーベル賞とかもそうですけど)評価されるのって、何十年も後なんですよね。
(だからこそ、評価されたくてやっている人は続かないのでしょうねー。なんだかんだといまだに人の評価を気にしている自分を反省します。まあ仕方ないか)