2023年7月1日~9月3日まであべのハルカス美術館にて開催の展覧会『超絶技巧、未来へ! 明治工芸とそのDNA』の観覧レポートです。
★東京会場は三井記念美術館にて、9月12日~11月26日に開催されます。
どんな展覧会?
・明治工芸のDNAを受け継ぎつつ新たな領域に挑む現代作家の作品を中心に紹介
・写実性すごい系(木彫)が多め
・全員に共通していたのは「とてつもなく手間のかかる作業を、とてつもなく積み上げていること」だと思った
・一部写真撮影OK
展示作品をざっくり紹介
前原氏のスルメ
以前、テレビで拝見し、「す、すごい人がいるな」と前原氏の存在は知っていました。
プロボクサーや会社員→藝大(油絵)→彫刻に転向という、少し変わった経歴も興味深く。
ガラスケースギリギリまで顔を近づけて凝視するものの、このスルメが木材であるということをなかなか認識できない。
しかも一つの木材から彫り出しているのです。
スルメの足の交差している部分などは普通の彫刻刀は入らないので、角度を変えてあちこちから細い刃を入れているとのことでした(展覧会映像より)。
スルメの向こうにぽつんと落ちている割れた茶碗も、釉薬の感じとか本当にリアルすぎて。
少しだけ彫刻を習っていた身からすると、「すっっっっご!!」という感想しか出てきません(己の才能のなさはよくわかった笑)。
福田氏の立体木象嵌(りったいもくぞうがん)
94年生まれ(!)という若者の作品ってのがまず驚き(いやまあ、才能に年齢は関係ないのでしょうけれども、ねぇ)。
立体木象嵌という手法だそうなので、おそらく、水滴のところを彫って、そこに別の木材をはめ込んでいるのだと思うのですが。
これまたリアリティがすさまじい。
写真が撮れるということもあり、すごく人気で人だかりができていました。
岩崎氏のくだもの類
写真は撮れなかったので、展覧会チラシから引用。
岩崎努氏の「さくらんぼ」。絵付けは同県内の画家の方(お名前を失念してしまった)が施しているそう。
こちらも、木彫って本当に本当に信じがたい……
発色もとてもきれいでうっとり。
螺鈿細工でこんなに洗練されたものができるとは!
こちらもチラシから引用。
「何ですかこの未来的なおしゃれな物体は」と思った次の瞬間、螺鈿細工(貝殻の光る部分を切り出して、木材や漆地にはめこむ)ではありませんか!
正倉院の宝物とかでよく見かける、あの伝統技法ですよね。
(こういうの↓)
伝統的な螺鈿細工ももちろん非常に美しいのですけれども、池田氏の作品は未来的というか、「伝統技術もこんなにスタイリッシュな方向に昇華できるものなんだ!」という衝撃を与えてくれました。
金属の鯛のお頭
金属の体毛で覆われた猫さんの視線の先には鯛のおかしら。
近づいてみるとこれまたすごかった。
ほ、本物?
魚特有の、体表が光を反射する感じが見事に再現されています(金属材料ならではですね)。
断面はどうなっているんだろう、と裏側からのぞいてみる。
ひー! そ、それっぽい! すご!
青木美歌氏のガラス
もともとガラス作品の質感・透明度がとても好きなので、こちらもやはり美しかった。
同時に展示されていた〈あなたに続く森〉を見ていたら、なんだか涙が出そうでした。
青木美歌氏は若くして逝去されていると知り、今後新作を見ることはできないのだと思うと、すごく残念で……。
けれど、生前にのこされた作品たちがこれからも人々を感動させていくのでしょうね。
誰しも、いつ人生の幕が閉じられるかはわからないので、なにごとも力を出し惜しみしちゃいかんなと思いました。
おわりに
紹介しきれませんでしたが、驚かされる作品ばかりでした。
今回の展覧会に出展の作家さんたちの共通点は
とんでもなく手間のかかる作業をものすごい量積み上げている
ことだと感じました。
そもそもの基本作業が素人には真似できないほどの精巧さや手間だったりで、ほんの一部(彫刻でいうならひと彫り)ですら真似できないと感じるもの。
にも関わらず、その真似できない作業を膨大に積み上げているように思いました。
ひとことでいえば「(そもそもの技術が高いうえに)根気が半端ない」ということ。
まあ、他の分野でも、第一線で活躍する人は皆そうなのかもしれないですね。
スポーツでも、元々運動神経が良い人が尋常でない量の練習を繰り返してオリンピックに出たりするように。
(でも意外と本人たちは楽しんでいたりもする……それこそが才能なんでしょう)
いやはや、基本的に何でもすぐに飽きて嫌になる私としては、「すごいなあ」と感嘆するしかありません。
岐阜、長野、大阪は会期終了しましたが、
東京 2023年9月12日~11月26日(三井記念美術館)
富山 2023年12月8日~2024年2月4日(富山県水墨美術館)
お近くの方はぜひ。