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【特別展】「野田弘志ー真理のリアリズム」- 写実的なのにどこか幻想的・手にとれそうなほどリアルに迫ってくる

奈良県立美術館

巡回展「野田弘志―真理のリアリズム」奈良会場の観覧レポートです。

日程
山口県立美術館:2022年4月27日~6月19日
姫路市立美術館:2022年7月2日~9月4日
奈良県立美術館:2022年9月17日~11月6日
札幌芸術の森美術館:2022年11月19日~2023年1月15日

どんな展覧会?

野田弘志氏は日本のリアリズム絵画を代表する画家のひとり
・野田氏の学生時代の作品~近作まで、画業の全容を展示
・写真よりもリアリティがあって圧倒される

印象に残ったこと

イラストレーター時代

野田氏は藝大卒業後、イラストレーターとして活躍。
『パーゴルフ』の表紙などが展示されていましたが、「え?これ写真じゃなかったの?」と驚きました。

また、多忙な日々のなか、絵画制作への想いがつのり、大病をしたこともあって、30代なかばで画業に専念することになったそう。

こんなレベルの人でも若い頃はそういう気持ちになったんだな、と思うと、勇気づけられるというか「わかるー」と思ってしまいました(多分わかっていない)。

「黒の時代」「金の時代」

画壇デビューしたころの静物画軍。

まず写実性に驚くのですけれども、アイテムのチョイスや並べ方もまたすごくいいといいますか。
くだものとか瓶とか、いかにもな「静物」のなかに、たまに一つ骨とかちょっとドキッとするようなアイテムが混ざっている。

写実的で手に取れそうなのに、どこか幻想的に見える、という不思議な感覚に陥りました。

また、すごく驚いたのが『きもの』という作品。
30~40代くらいの着物を着た女性の肖像画なのですが、「え、これ、写真を切り取って黒い背景の上に貼ったのでは??」と思わずにいられないほどでした。
表情もこう、訴えてくるものがあるというか。

風景画シリーズ

「朝の美ヶ原」(特別展チラシを撮影)

もう本当に写真にしか見えないのです。
油絵具の凹凸を確認しつつも、写真にしか見えないのです。
写真以上に美しさが伝わってきて背中がぞくっとするのです。

『TOKIJIKU(非時)』『THE』シリーズ

特別展チラシを撮影

 

死生観を示そうとしたのがTOKIJIKUシリーズとTHEシリーズ。

TOKIJIKUシリーズは動物の骨やハチの巣、鳥の羽などがモチーフ。
その後一人の人間が佇むTHEシリーズに展開していったそう。

THEシリーズには身体を抱えて横たわる裸婦像が目を引くのですが、「すぐそこにいそう」感がすぎました。

聖なるものシリーズ・崇高なるものシリーズ

近年手掛けている等身大肖像画のシリーズ。

TOKIJIKUやTHEシリーズの裸婦像は、あまり顔が見えないような構図が多かったと思うのですが、聖なるもの崇高なるものシリーズでは、正面を向いている構図が多かったと思います。
ありのままの体に挑戦的な瞳、それぞれに表情があり、心がゆらぎました。

また、一般の方の全身肖像画も素晴らしくて、その人の温かみとか人格とかが伝わってくるような、今にもしゃべりかけてきそうな。

静物画から人間へと、対象が移っていくのがまた、人間らしいというか、世の中の神髄っぽいというか、そんなことも思いました。

おわりに

奥の建物は奈良文化会館


画壇デビュー時の静物画から圧倒的な画力なのですが、個人的にはやはり最近の等身大肖像画シリーズがなんかいいなあ、と感じます。

年齢を重ねて不便なことも増えてくるはずですが、芸術的な能力は磨けるのだなと、何歳になってもあきらめなくていいんだな、と励まされたような気がします。

また、たくさんの丁寧に描き込まれた絵を前にしつつ、「どう考えても私には気が遠くなって無理だな」と思ったのですが、絵が得意な人にはあまり苦にならないのでしょうから、「やり続けられるって、それこそが才能なんだよな」と実感しました。