奈良県立美術館にて2020年1月25日~3月15日開催の特別展「生誕90年 田中一光 未来を照らすデザイン」の観賞記録です。
田中一光氏について
奈良県奈良市出身のグラフィックデザイナー。
広告ポスターの専門家、といったイメージでしょうか。
昭和を代表するグラフィックデザイナーということもあって、代表作は多々あるようなのですが、私が一番「あれか!」と思ったのは、西武百貨店の包装紙!
(※今回の特別展では展示されていません)
白地に緑丸と青丸がプリントされているやつ。
手元に写真がなかったので、とりいそぎパワポでイメージ図を描きました。
懐かしい……最近は西武百貨店に行く機会がないのでわからないのですが、現在もこの包装紙なんですかね??
田中一光さんのことはこれまで存じ上げなかったのですが、あの西武の包装紙をデザインした方と知り、いかにメジャーな方なのかということがよくわかりました。
2020年は田中一光さん生誕90年だそうで、その業績を振り返る、という趣旨の展示のようです。
印象に残った作品
全体的な感想としては、シンプルな図形を使っているだけなのに、表現しようとしている対象が見事に立ち上がってくることに驚きました。
図形が並ぶ構図であっても、整然としているというよりは、どこか数か所ハズしているような印象で、それがとてもおしゃれに見える感じがしました。
このあたりの感覚は、センスってやつなのでしょうね。
植物シリーズなど、切り絵がベースになっている作品も多々あり、どこか懐かしさを感じました。
JAPAN 1986
今回のポスターにも掲載されている『JAPAN』(1986)。
形としてはすごくシンプルなのですが、明らかに「鹿」とわかるのがすごい。
よく見ると、身体はほぼ「丸」なんですよね。
頭だって、じっくり見ていると「あれ??意外と犬っぽい?」となってくる。
でも、パッと見の印象は完全に「鹿」、本物の鹿より鹿感ある。
不思議です。
温かみのある色合いもいい。
JAPANの文字の寒色もしっくりなじんでいます。
Morisawa 写植
切り絵風の、色とりどりの水玉模様が並んでいて、各水玉のところに、漢字が書かれているポスター。
(おそらく、モリサワという会社の写植技術の広告なのかな、と思うのですが)
切り絵風の水玉模様、というのが私にとっては斬新でした。
「水玉って、揃ってなくていいんだ!」的な。
色とりどり、というところも目に嬉しいというか、晴れやかな気持ちになりました。
Nihon Buyo 1981
看板やポスター(裏面)に載っている『Nihon Buyo』。
下の写真でいうと、左上の、舞妓さん的な絵です。
髪飾り(お団子?)の水色の円がアクセントになっていてかわいい。
ISSEI MIYAKEがこの絵柄を使ってデザインした洋服『NIHON BUYO COAT』も展示されていました。
縮み、というか、細い縦スジの入った生地で、元のデザインとよくマッチして素敵でした。
『Nihon Buyo』は、正方形と三角形と円と半円しか使っていないのに、「日本髪を結って着物を着ている人」というのがビシビシ伝わってきます。
それで、ふと思ったのですよ。
分解するとすべて、正方形や三角形。
正方形や三角形ならば私にも描ける。
だとしたら、私にも、アート作品っぽいものが描けはしないだろうか、と。
ええ、浅はかですね。
後に思い知らされる羽目になりました。
体験コーナーで実力を思い知る
展示が終わると、体験コーナー的なところがありました。
正方形や三角形や円のスタンプが置かれていて、(『Nihon Buyo』などを参考に)「オリジナルの顔をデザインしてみよう!」という企画。
おそらくお子さん向けのコーナーと思われるのですが、この日はとんでもなく人が少なかったらしく、係の方に「やりませんか?(やってください)」と声をかけていただきました。
私としても、早速、己のセンスを試す絶好のチャンス。
すすめられるがままに、スタンプをペタペタと押して……『Nihon Buyo』に負けないほどの作品を……。
ひどい……笑
似ているのは目と口だけ。
といっても、目と口はあらかじめガイドラインが印刷されていたので、失敗しないようになっているんです。
せめて『Nihon Buyo』を忠実に再現すればよかったものを、いきなりオリジナルな顔を目指したのがいけなかった……。
顔面に少し色を乗せるつもりで押した黄色の丸、スタンプパッドが変色して黄緑になって、結果意味不明になってるし(汗)
しかし、よくわかりました。
シンプルな構図だからこそ、センスの良し悪しがむちゃくちゃ影響する、ということが。
おそらく、1ミリでもずれたらだいぶ変わる、くらいの世界なんでしょうね。
モチーフのシンプルさだけ見て、たとえ一瞬でも「私にもそれっぽいものが描けはしまいか……」などと変な気を起こしたのを大いに反省したのでした。
おわりに
「どの作品もなんかいい(=好感度が高)」という印象を受けました。
これは広告媒体などで必須の条件でしょうが、現実にはなかなか難しいと思うので、やはり昭和を代表するデザイナーたるゆえんなのだなあ、と実感しました。
近くで観るのと、少し離れて観るのでは、かなり印象が違う作品も。
(ポスターなどは遠目から観ることを想定していますからね)
近づいたり遠ざかったり、いろんな距離でご覧になると、さらに楽しめると思います。