近鉄奈良駅から徒歩5分の場所にある奈良県立美術館。
そちらで2019年に開催された企画展「富本憲吉入門 ー彼はなぜ日本近代陶芸の巨匠なのか」の感想です。
陶芸は詳しくない私ですが(一度体験レッスンのようなものを受けたことがありますが、続かず…)、街中に貼ってあるポスターにつられて、観てきました。
富本憲吉(とみもとけんきち)とは
奈良県出身(1886ー1963)、日本近代陶芸の巨匠だそうです。
なぜ彼が日本近代陶芸の巨匠と呼ばれるのか。
それを理解しよう、という目的で開催されたのが本展。
展示の冒頭でまず驚いたのが、富本氏が陶芸を始めたのが27歳のころ、ということ。
意外と遅いな、と感じました。
とはいえ、もともと絵を描くのも得意で、東京美術学校を卒業されているので、全くの畑違いから参入した、というわけでもないようです。
また、子どもの頃から、焼物を見るのがお好きだったとのこと。
楽焼から始めて、土焼・白磁・染付と展開し、色絵磁器へと展開されていく様子を、展示を通して知ることができました。
模様へのこだわり
富本氏は、従来からある模様ではなくて、「オリジナルな模様」を目指していたそうです。
基本的には自然の中から模様を見いだすことをモットーとしており、植物をモチーフにしたものが多かったです。
アザミ、シャクヤク、トリカブトの葉、なんかもありましたね。
いずれもシンプルで自然というか、どこか水墨画めいた印象でした。
それから四弁花模様の時代を経て、最終的にはシダ模様に辿りつきます。
館内に四弁花模様とシダ模様のスタンプが置いてありましたので、ご参考までに載せます。
個人的にはやはりこのシダ模様がいちばん魅力的かな、と思いました。
芸術家や作家などに対して「若い頃の作品の方が……」という感想を聞くこともありますが、富本氏に関しては、陶芸家人生終盤の「シダ模様」をつけた磁器が集大成といえる気がします。
過去の自分の作品を越えられない、と悩む芸術家もいる中、常に自分の知識や技術をアップデートしていたところがすごいなと思います。
実際、富本氏は、一年に何度か、焼物の名産地の窯元を訪ね、その地の技法などを学んでいたらしいです(記憶がやや曖昧ですが、説明パネルにそのような記述がありました)。
たくさんつくる
富本氏の作品でこれまた外せないのが「白磁」でしょうか。
白磁は真っ白な壷やら器の類です(ポスターでも中央上部に載っています)。
つるんとして、あたたかな丸みのあるフォルム、素人が見ても「よくこんなに均整のとれた形にできるなぁ」と思います。
そんなに巧い人でも、かなり数を作っているということに驚きました。
富本氏曰く「白磁は形がすべて」ということで、20~30個を並べてみて、そのうち形のいいもの1/3だけを白磁にするそうです。
残りの1/3を釉薬・染付、さらに残りの1/3を絵付にするとのこと。
何か作るとき、たった一つでもかなり満足してしまう(というよりは飽きてしまう)私からすると「そ……そんなにつくるんだ、一度に」と驚きでした。
こういった膨大な作業量に耐えられるというのがまず、芸術家としての一つの才能なのかな、とも思いますね。
もう一つ驚いたのがお皿や壷に絵をつける場合、必ず別紙に下書きをしていたこと。
しかも、その下書きの通りに絵がつけられている。
スッと何気なく引かれた線のようでいて、実はすごく計算されているのですね。
プロ中のプロでも、気を抜かず、一つひとつ真剣に創っているわけです(当たり前ですかね、だからこそプロなのでしょうね)。
己の全方位的な怠け癖を反省したのでした。
おわりに
奈良県立美術館は、建物自体は少々古い感じがしましたが、広いので、ゆったり楽しむことができました。
あと、展示パネルの文字が大きめなのが良かったです。
個々の作品につけられているものは普通だったと思いますが、章ごとの背景などが書かれたパネルの文字が大きくて読みやすい。
コンタクトレンズをしても常に近視気味の私、パネルの文字が小さいと読む気がなくなってしまうのですが、ストレスなく読めました。
東大寺や春日大社の散策で疲れたときなどに立ち寄るのもおすすめ。