素人なりに楽しむアート

期間限定の美術展の感想を置いておくところ

【奈良県立美術館】吉川観方 - 透明感ある日本画が印象的

奈良県立美術館にて2019年9月28日~11月17日開催の「吉川観方ー日本文化へのまなざし」の観賞記録です。

 

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奈良県立美術館



吉川観方(よしかわかんぽう 1894ー1979)って?

どんな人かをひとことで表現するなら、
画家であり、コレクターであり、研究者でもある人
といったところでしょうか。

はじめは画家を志し、日本画を描いていたそうです(本格的に版画をやっていた時代もある)が、次第に風俗史の研究や美術品の収集に没頭。
映画や舞台などの時代考証にも力を入れていたそうです。

観方自身が描いた作品をはじめ、弟子の作品や観方の収集品を通して、日本文化の魅力を見つめ直そう、というスタンスの展示会のようでした。

観方のことはこれまで知らず、また(美術館は好きだけど)絵画に関して完全素人な私ですが、素人なりに感じたことを記しておきます。


印象に残った作品

どちらかというと観方は、画家として、よりも、収集家としての面のほうが有名なのかな、と思っていたのですが。

観方の描いた日本画を前にして、その透明感に驚きました。

加茂川舞妓夕涼図

チケットに印刷されている「加茂川舞妓夕涼図」が一番有名なのですかね。

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チケットを撮影したもの


チケットの写真では伝わらないかもしれませんが、すごく透明感のある絵でした。

日本画ってわりとのっぺりした印象になりがちな気がする(それが日本画のよさでもある?)のですが、ほどよい立体感もあるというか。

着物のパキっとした青白ストライプもさわやか。
赤や緑、背景はトーンが押さえられていて、バランスがとれている感じがします。

黒目がちの女性(というか少女でしょうか)は、どんなことを思っていたのだろう、と想像せずにはおれない表情。

教科書とか、どこかで観たことがあるような気がしたのですが、パンフレットに「新発見の初期の名品初公開!」とありました。


 

入相告ぐる頃

パンフレットの表を飾っている絵です。

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パンフレットを撮影したもの


展示では横並びに配置されています。

入相とは、日の暮れるころのこと。
お花見でお酒を飲んだ若者たちが歩いているシーンなのだとか(展示説明パネルより。勘違いしていたらすみません)。

お酒を飲んでいるからでしょうか、頬や指先がほんのり赤くなっているのが印象的でした。

若者たちは、前方や斜め上方に視線をやっているのですが(桜が咲き誇っているから)、一人の若者は風に舞う花びらに気をとられています。

あー、こういう感じの若者の列、見たことある、と思いました(格好は違いますけど)。
シチュエーションとしては非常にリアルなのですけれども、どこか夢心地のような印象を覚える絵です。

この『入相告ぐる頃』と並んで『櫻下遊泳の図』という作品も展示されています。
描かれる人物はどちらも同じで、異なるのは、人物の配置や着物の柄だけ。

それでも、両者を見比べると、『入相告ぐる頃』のほうが空間的にも色調的にもバランスが良い感じがしました(『入相告ぐる頃』が有名なのも納得)。


幽霊画

「観方といえば幽霊画!」だそうで(パンフレットより)。
観方の描いた幽霊画や、弟子(?)の描いた幽霊画の展示エリアもありました。

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パンフレット 裏



ずらりと並ぶ幽霊画を観て思ったのは、「幽霊を幽霊たらしめるものは「死」のにおい」なんだな、と。
結局のところ、人間が恐れているものは「死」なのだな、と。

というのも幽霊たちにはこんな特徴があったからです。
・髪が抜け落ちている
・歯が抜け落ちている
・顔のどこかしらが腫れている
・目が落ちくぼんでいる
・血を滴らせていることがある
・身体を脱力させている

これ全部、「(老いも含めた)死」を連想させるものですものね。

幽霊画を観ることで、「死」を想起して、背中がヒヤッとする。
そして日常に戻り、「ああ、生きていてよかった」という類の安堵を感じる。

幽霊画は、ジェットコースターとかお化け屋敷と同じ役割だったのかもしれませんね。


幽霊画の中でも、一番印象に残ったのは、観方の作品『朝露・夕霧』(お岩とお菊がモデルらしい)。
幽霊とはいえ、おどろおどろしい、というよりはむしろ、愛嬌がありました。

幽霊姿の二人が向き合って、何か相談しているように見えます(パンフレットには「夕霧」のみ掲載)。
「ねえ、今日どうする?」「誰のところに出る?」みたいな。

この愛嬌ある幽霊画によって、悲劇の人として語られるお岩さんとお菊さんが少し浮かばれるような気さえしました。

 

幽霊・妖怪画大全集

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おわりに

観方の日本画、透明感があって、とてもきれいです。

日本画は昭和前半に描いたものがメインで、晩年は収集や時代考証に没頭したとのことで、「それはそれですばらしいことではあるが、(描かないのは)もったいないな」とも思ったのでした(余計なお世話か)。


(音楽とか、他のことでもそうですけれど)絵がうまいって、明らかなる才能ですよね。
もちろん練習を重ねることでうまくなる部分はあるのでしょうけど、元々のセンスはアスリートでいうところの「運動神経」みたいなものかと。

学生時代、圧倒的に絵が上手な子がいて、「どう転んでもこの人よりいい絵が描けることは絶対にない」と衝撃を受けたことがあります。
なんかこう「絶対に脅かされることのないものを持っている」という感じがしました。
絵の才能が、彼女を彼女たらしめている、というか。

だからこそ、絵の才能がある人ってうらやましいなあと思ってしまいます。
まあ、才能があったらあったで、また別の苦悩があるのでしょうけどね。

そんなことを考えた一日でした。